2017年 9・10月の手紙

夏が終わろうとしています。夕暮れの風はもう秋の匂いを運んできます。
夏休みも終わりを告げる8月末の10日間くらいの日々を、私たち家族は毎年、妙高高原にある山荘で過ごしていました。

それは、父が亡くなる一年前、私が小学校に入った年に始まり、高校を出るまでの12、3年続きました。思えば、そこは癌で余命僅かだった父との最初で最後の旅の場所でもあったのです。数少ない父との記憶のひとつに何故か高く父の手で抱き上げられているシーンがあり、多分、それは、あの山荘での出来事だったのでは・・・?と思っています。

父が亡くなってからも毎年、この夏の旅は続いていました。私と兄は宿題の山を抱え、快適で涼しく、宿題を終らす時だったのですが、母は、この長い時をひたすらボーッと妙高山を眺めて過ごしていました。幼い私には、父の代わりに忙しく働いていてくれていた母にとって、ただ、日頃の疲れを癒しているだけにしか思えませんでした。

ある時、古い箪笥の奥から父のスケッチブックが出てきました。
その中には、たくさんの山荘からみた妙高山の風景が描かれていました。多分、あの最後の旅の時に描いたものでしょう・・・・仮退院した父には病気のことも余命のことも知らされてなかったので、復帰する前の養生のつもりで好きだったスケッチをしながら時を過ごしていたのだと思います。あの山荘の、あの部屋の、あの窓から見える妙高山!父が逝ってしまった時、母は39歳、その後の10年余りに、母は毎年、毎年、何を思いながら、あの風景をみていたのでしょう。もう、あの頃の母より歳を重ねてしまった今になって、ふと、そんなことを考えています。幼かった私には母は母親でしかなく、その胸に去来する想いなど、はかり知ることはできませんでした・・・・

母が逝ってしまってから、12年が過ぎようとしています。あの山荘は、今はもう壊されてしまいました。随分、訪れていない妙高高原!父と母の写真を持って、一度訪れてたいと思っています。あのスケッチブックを抱えて!

10月17日(火)に友納あけみ*コンセール コムテアトル『恋文Ⅴ』を開きます。
新橋・内幸町ホール*開場18:30*開演19:00

今年の『恋文Ⅴ』は堀辰雄の不朽の名作『風立ちぬ』を歌と語りを絡めながら、綴っていこうと思います。アラン・バリエールの名曲「風が連れ去った恋」をテーマ曲に雄太さんの華麗なピアノ、寺島貴恵さんの咽び泣くヴァイオリンの調べにのせ、切ないほど美しい恋の物語を、お届けします・・・青春の時代に読書なさった方もたくさんいらっしゃると思います。日常の生活を離れ、暫し、あの頃の恋心を重ねて頂ければと願っています。秋も深まっている頃!是非、秋の宵に!お出かけくださいませ!

(ホームページ「今月の手紙」より転載)